団地暮らし、最初の夜。「ただいま」と言っても誰もいなかった

心のこと

何もない部屋に、私だけがいた

8月の初旬、引っ越しの日がきた。

部屋は想像よりずっとよかった。

白を基調にリノベーションされた室内、木の温もりを感じる床、追い炊き付きのお風呂、三ツ口ガスコンロのキッチン。南側の窓からは光がいっぱいに入ってきて、団地とは思えないほど明るかった。躊躇なく、賃貸契約を結んだ。

持ち出した荷物は、少しの洋服と靴とパソコン。25年間暮らした家から、私が持ち出せたのはそれだけだった。

静けさの中に、知らない音

夜になると、団地は音が響いた。

どこかの部屋の人の声。そしていきなりゴウと唸る排水管の音。最初はびっくりして、体が固まった。団地の周りは草がぼうぼうで、暗くなると虫が出てきて怖かった。リノベされているのに、お風呂だけは団地特有の生臭い匂いが漂って、なんだか気持ち悪かった。

インターホンが赤く点滅していた。録画に写る人影が、恐怖だった。

心が、上がったり下がったりした

自分でもよくわからなかった。

1人をポジティブに考えられなかった。誰とも話さない日もあった。頭の中では耳鳴りがうるさい。かつて自分の家だった場所の側を通ると、胸が締め付けられた。家を出なければよかったのか、という思考が何度も頭をよぎった。

「ただいま」と言っても誰もいない。「お帰り」と言ってくれる人もいない。気持ちを共有できる子どもも今はいない。その静けさが、こんなにも重いものだとは思っていなかった。

それでも、ここを選んだ

ここに来た最初の夜、私の心は落ち着かなかった。

でも今思えば、あの不安も孤独も、全部ひっくるめて「私が選んだ場所」だった。悔しさも怖さも、自分の人生を動かした証拠だったんだと、今はそう思っている。

これが本音。

「50代、一人暮らし・・・自由で気まま・・・」そんな思いはなかった。だけどここには私だけ。胸が締め付けられる思いはこれからはない。ずっと失っていた自分を、これから取り戻していく。

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